恋愛至上主義の女

暇を持て余した女子大生が好奇心で潜り込んだ世界の備忘録。

3枚の1円玉から始まる恋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欠陥品の歯車同士が

噛み合って機能することは永遠にあり得ない。

 

 

 

" あそび " を持たない歯車は中々噛み合わず

たとえ噛み合ってもすぐに破損してしまう。

 

 

 

私たちはそんな関係だった。

 

 

 

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高校1年 4月

 

 

 

 

桜の舞う季節、

第一志望だった高校の制服に身を包み

憧れの高校生活を謳歌しようと息巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

いわゆる高校デビューだった。

小中が大学附属校だったことに加え

途中で転校をしていた私は普通の学校生活に憧れていた。

みんな同じ条件でのスタート。

ここではもう転校生ではない。

 

 

 

 

 

 

入学式翌日

そんな意気込みも虚しく、早速やってしまった。

教材代の追加徴収があることを忘れていた。

財布を確認すると、よかった!あっt、、

 

お金はあった、が、細かい小銭がなかった。

まずい、ピッタリ厳守なのに、、。

 

 

 

近くの席の女の子に聞いてもみんな持っていなかった。

でもこんなことで先生に注意を受けるのだけは避けたい。

 

 

 

 

 

仕方ない、隣の席の物静かで地味な子は避け、

斜め後ろの席の男の子に声をかけた。

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、3円持ってない??』

 

 

 

 

 

 

これが彼との最初の会話だった。

今思えばとんでもない出会いなのに

後に、彼に言われる時まで、

私はこの時のことをすっかり忘れていた。

 

それくらい3円を確保することに必死だったわけ。

 

 

 

 

 

 

「んーーーー。あるよ!」

 

 

彼はすぐに確認して、快く貸してくれた。

わたしはお礼を言って、知り合ったばかりの友達と

ほんとよかった~。なんて言いながら集金場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、彼が登校してくるとすぐに

私は1円玉3枚を持って彼の元に向かった。

 

 

 

「おはよう、昨日はありがとう。

 ほんとに助かった。これ返すね。」

 

 

 

私を見て彼は笑った。

 

 

 

「3円くらいいいよ、あげるよ」

 

 

 

顔が赤くなるのがわかるくらい恥ずかしかった。

 

 

 

「いや、でもそういうのはちゃんとしないと、、」

 

 

焦る私を知ってか知らずか、彼はまた笑いながら

 

 

 

 

「じゃあせっかくだし貰っとくわ、律儀なんだね。」

 

 と受け取ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼休み

みんなで部活勧誘のビラを見ていた。

運動が苦手で少女漫画が大好きな私は

高校では男子部のマネジャーをすると決めていた。

すると頭の上から声がした。

 

 

 

「マネージャー志望ならバレー部きてよ!」

 

彼だった。 

 

 

 

「バレー部に入るの?」

 

 

「入るってかもう入ってる。

 俺推薦だからさ、先輩に呼ばれて春休み前から練習でてるの。

 とりあえず見学来てよ、俺いるし!」

 

 

「ふーん、バレーかぁ。行ってみようかなぁ、、」

 

 

 

正直、バレーボールは好きじゃなかった。

体育の授業でしかやったことはなかったけど、

痛いし難しいし、苦手だった。

テレビで日本代表戦を観ることさえなかったけれど

せっかく誘ってもらったので行ってみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

放課後、同じクラスで唯一マネージャー志望の子と体育館へ向かった。

既に練習が行われていて、プレーヤー希望の1年生の男の子が何人かいたけれどそこに彼の姿はなく、少し離れたところで先輩に混じってアップをしていた。

 

 

 

 

 

(あぁ、ほんとにもう練習に混ざってるんだ。)

 

 

 

 

 

 

彼が返したボールは綺麗な軌道を描きながらペアの先輩の元に向かい、また先輩が返したボールも同じ軌道を描いて彼の元に届き、また彼が返して、と繰り返されるオーバーパス。

 

 

その動きはとても美しかった。

生まれて初めて、スポーツをする男の子を見て美しいと思った。その感覚は今でも鮮明に思い出せるくらいに衝撃的で、未だに彼以外でスポーツする男の人の姿を見て美しいと感じたことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見惚れてしまって目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてスパイク練習に移ると

和やかなムードは一転して空気が引き締まった。

先ほどまで見せていた笑顔は消え

真剣な眼差しで跳んではスパイクを打っていた。

そんな姿もまた美しかった。

自分の打ったボールを見届けては首を傾げたり頷いたりする姿をみてプロフェッショナルだ、と思った。(語彙力)

私には今のプレーの何が良くて何が悪いか分からないけれど。

 

 

 

 

ほんとはサッカー部やバスケ部などマネージャーがいる王道なスポーツを選ぶつもりだったのに、

バレー部にする、そう決めた。

 

 

 

 

彼のプレーに惹かれた、

いや、彼自身に とてつもなく惹かれていた。

誰かに彼を取られたくないとも思った。

バレー部にマネージャーは何人もいらないだろうし

はやいもの順だろうと思ったら、即決していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは

10代の頃からとても恋愛体質で

いつでも好きな人がいた。

 

 

 

 

 

もちろん入学式の日、

クラスの男の子を見渡してイケメンとそれ以外に分類していた。1番かっこいいと思った男の子は背が高くて目鼻立ちのはっきりした、城田優似の子。でも彼は次の日には坊主になっていた。私は昔から野球部が苦手だったので、残念だなと思いながら、興味は薄れた。

 

 

 

一方で彼はというと、

最初は目に留まらなかったが

よく見てみると、綺麗な白い肌、

切れ長の目に長いまつげ

少し茶色くて柔らかそうな髪の毛

小さな顔に似合わず大きな手に長い指

女の子よりも綺麗な爪。

男の子にしては少し高めの声で発する言葉は

ちゃんと男の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

好きかもしれない

そう思うのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

こうして、

永遠に噛み合うことはないのに

惹かれ合ってしまう歯車は動き出した。